イギリスの「税は財源ではない」「支出が先、課税はあと」とは

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この論文『The Self-Financing State』は、イギリス政府の財政運営について、特に支出、税収、国債発行の仕組みを詳しく分析しています。

The self-financing state

専門的な内容ですが、論文の内容を簡潔にわかりやすく要点をまとめました。

政府の支出:お金は「先に使う」ことで生まれる

イギリス政府が支出を行う際、まず「Consolidated Fund(統合基金)」という政府専用の口座から資金を引き出します。

これは法律で定められた手続きで、政府が新たにお金を生み出すことを意味します。

この資金は、商業銀行を通じて経済全体に流れ、公共サービスやインフラなどに使われます。

つまり、政府は税金を集めてから支出するのではなく、まずお金を使い、その後に税金を徴収するという流れになっています。

税金の役割:お金を「回収」する仕組み

税金の主な役割は、政府が支出によって経済に供給したお金を回収することです。

これにより、経済全体のお金の量を調整し、インフレを防ぐ効果があります。

また、税金は所得の再分配や特定の行動を促す(例:環境税で環境保護を促進)などの目的も持っています。

国債の発行:資金調達ではなく「金融市場の安定化」

政府が国債(イギリスでは「ギルト」と呼ばれる)を発行する主な目的は、資金調達ではありません。

むしろ、金融市場に安全な資産を提供し、金利の安定や金融機関の運用を助けるためです。

特に現在のように市場に資金が余っている状況では、国債は投資先として重要な役割を果たしています。

政府は「自らお金を生み出す」存在

この論文は、イギリス政府が自国通貨を発行する能力を持ち、財政赤字や国債発行が必ずしも問題ではないことを示しています。

重要なのは、経済全体のバランスを保ち、インフレを抑制し、持続可能な成長を目指すことです。

 

「Consolidated Fund(統合基金)」とは?

イギリス政府の“メイン口座”で、公共支出の多くがここから始まります。

実際には、イングランド銀行(Bank of England)に置かれている、政府専用の口座です。

政府が使うお金は「新たに作られる」

イギリス政府は、自国通貨(ポンド)を発行できる唯一の機関です。

支出が必要になると、イングランド銀行が「Consolidated Fund」に記帳で新しいお金(デジタル)を作って入れます。

これは「印刷する」のではなく、コンピューター上で残高を増やすという意味です。

つまり、「口座の中のお金は、税金などで貯めたもの」ではなく、「政府の命令で新しく作られる」のです。

流れのイメージ

  1. 政府:「支出したい(例:学校にお金を出す)」
  2. イングランド銀行:「OK、Consolidated Fundにその分のお金を入れます」
  3. 政府の支払い:そのお金が商業銀行を通じて、学校の口座に振り込まれる
  4. 経済にお金が流れる:国民や企業の手に届く
  5. 税金や国債:あとでお金を回収して調整

なぜこんな仕組みなのか?

政府は「通貨発行者」、国民や企業は「通貨の利用者」です。

通貨発行者は「まず支出してから、税で回収する」ことができます。これは企業や家庭とは逆のロジックです

この仕組みを理解すると、「政府にはお金がないから増税が必要」といった議論が、少し違った見方をされる理由がわかってきます。

イギリス政府のように自国通貨を発行できる政府(通貨主権を持つ政府)は、イングランド銀行を通じて、「記帳」だけでお金を作ることができます。

これは「無から有を生む」と言われることもあります。

 

記帳でお金が増える、ということの意味

イングランド銀行は政府の「銀行」なので、政府が支出の必要を決めれば、 銀行が政府の口座(Consolidated Fund)の残高を単に記帳で増やすことができます。

これは物理的なお金を印刷するわけではなく、コンピューター上の数値を変えるということです。

法定手続き

技術的には「代償なし」に記帳できますが、

政治的・制度的な手続きやルール上の制限は存在します。

  • 政府の支出には議会の承認(予算)が必要。
  • 財務省(HM Treasury)がイングランド銀行に命令する形で動く。
  • イングランド銀行は一応「独立機関」なので、直接の命令は形式上ないことになっている(ただし現実には密接に協調)。

イギリスは自国通貨で借金し、自国通貨を発行できる国です(=通貨主権がある)。

だから、お金が足りないから支出できないという制約は本質的にはないのです。

インフレ

この仕組みを聞くと「じゃあ、無限にお金を出せばいいじゃん!」と思うかもしれませんが、制限は「お金の量」ではなく、「インフレ(物価上昇)」です。

お金を出しすぎると、モノの供給が追いつかずにインフレが起きることがある。

だから政府は、経済全体のバランスを見ながらお金を出す必要があります。

イングランド銀行は、政府の命令で「記帳」によってお金を作ることができる。技術的にコストはかからない。

ただし、制度的ルールと経済的なバランス(特にインフレ)が制約となります。

逆に言えばインフレを制御している限りは、政府はいくらでも通貨を発行できることになります。