1. そもそも「局所実在性」とは?
「局所実在性」とは、ざっくり言うと次の2つを含む考え方です。
実在性:「モノは観測しなくてもそこにある」
例:リンゴがテーブルの上に置いてあれば、誰も見ていなくてもそこにあるはず。
局所性:「遠くにあるものは直接影響しない」
例:Aさんが東京でボールを蹴ったとしても、それが同時にニューヨークにあるボールの動きに影響を与えることはないはず。
この考え方は、私たちが普段感じる「常識」に合っています。
量子力学の不思議な世界
しかし、量子力学では「量子もつれ(エンタングルメント)」という不思議な現象が起こります。
例えば、次のような状況を考えてみましょう。
ある方法で2つの電子(AとB)を「もつれた状態」にする。
もつれた電子は、たとえ宇宙の反対側に離れても、お互いに不思議な関係を持ち続ける。
A電子の性質を観測すると、B電子の性質が「同時に」決まる。
これが「量子もつれ」の基本です。
普通に考えると、「Aを測定した瞬間にBの状態が決まるのはおかしい!」と思いますよね。
3. ベル不等式とは?
アインシュタインは「量子もつれなんて奇妙すぎる。きっと何か隠れた情報があるはずだ」と考えました。
そこで、1964年に物理学者ジョン・ベルが
「もし局所実在性が正しければ、観測データはこの範囲内に収まるはずだ」
という数式(ベル不等式)を考えました。
しかし、その後の実験で 「ベル不等式は破れている!」 ことが確認されました。
つまり、「局所実在性の考えでは説明できない現象が実際に起こっている」 ということです。
では、どういうこと?
ベル不等式が破れるということは、次のどちらかが正しくなります。
☆実在性をあきらめる:「観測するまではモノは確定して存在していない」
例:テーブルの上のリンゴは、人が見るまではそこにあるとは言えない!
☆局所性をあきらめる:「遠く離れたもの同士が瞬時に影響し合う」
例:東京でボールを蹴った瞬間、ニューヨークのボールが影響を受ける!?
つまり、私たちが当たり前だと思っている
「モノはそこにある」
「遠くのものは直接影響しない」
のどちらか、あるいは両方が間違っていることになります。
2022年のノーベル賞受賞者たちの実験
2022年にノーベル物理学賞を受賞したアラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーは、量子もつれをより精密に測定する実験を行い、「ベル不等式の破れは確かに存在する!」 ことを証明しました。
つまり、「そこにモノがある」という考え方(実在性)が、少なくとも私たちの直感通りには成り立たない ことが確定しました。
A.普通の常識:「モノは観測しなくてもそこにあるし、遠くのもの同士は直接影響しない」
B.量子力学の世界:「観測するまでモノの状態は確定せず、遠く離れていても影響し合う」
実験の結果:B(量子力学の世界)のほうが正しいことが証明された
つまり、私たちが当たり前だと思っている「現実の見え方」が、量子の世界では通用しない ということです。
ちょっと不思議ですよね?
でも、これが今の物理学が示す「現実」なんです。
「実在しない」と言っても、「そこに何もない」という意味ではありません。もう少し詳しく説明しますね。
「実在しない」とは?
量子力学において「実在しない」というのは、「観測するまでは、その性質や状態が確定していない」 という意味です。
つまり、物質やエネルギーが物理的に「消えている」わけではなく、「どんな性質を持っているかが決まっていない」 ということです。
例:シュレーディンガーの猫
よく使われる例が「シュレーディンガーの猫」です。
箱の中に猫を入れ、量子のルールに従う仕掛けを用意する。
仕掛けによって、猫が「生きている状態」と「死んでいる状態」が量子的に重なり合う。
箱を開けて観測するまで、猫は生死どちらとも決まっていない(両方が重なった状態)。
これと同じように、量子の世界では「観測するまで、物質や粒子の状態が確定していない」という考え方をします。
「実在しない」は「物理的に存在しない」ではない
例えば、電子を1個だけ飛ばす実験を考えてみましょう。
電子は、飛んでいる間は「どこにあるか確定していない」状態になる。
しかし、観測すると「確かにどこかにある」ことがわかる。
この「観測するまでどこにあるかわからない」というのが、「実在しない」の意味に近いです。
でも、電子が物理的に消えたり、何もない真空になったりするわけではありません。
どういうことかまとめると
「実在しない」= 物質が物理的に消えてなくなる、という意味ではない。
観測するまで、モノの性質(位置・状態など)が確定していない、という意味。
観測すると、ちゃんと「そこにある」ことがわかる。
つまり、「物質やエネルギーが消えてなくなる」という話ではなく、「観測するまで、状態が曖昧で確定していない」 というのがポイントなんです。