【雲霧仁左衛門の登場人物】雲霧仁左衛門、木鼠の吉五郎、七化けのお千代、安部式部信旨ほか

雲霧仁左衛門

もちろんこの物語の主人公筆頭であります。
もともと江戸時代の伝説的な盗賊であったようで、
講談などですでに有名だったものを、池波正太郎さんが小説化し、
現在知られているような人物像となりました。

雲霧仁左衛門の容貌ですが、三坪の伝次郎が描写したものが小説中に出てきます。

 六年前のそのとき、雲霧仁左衛門は、まだ四十前のはずであったが、
 たかい鼻筋や、笑いを含んだ切れ長の両眼の穏やかな光や、
 細く長く、しかも毛筋のはっきりとした役者のような眉や、
 「わしが、仁左衛門。これからは、よろしゅうな」
 落ち着き払った声を伝次郎へかけた様子は、どう見ても、
 どこぞの大名家の留守居役ででもあるかのように見えた。

ふーむ。30代にしてすでに老成し、人間的な奥深さを持っていたようです。
また、一見穏やかなのにもかかわらず、その迫力は圧倒的で、
小頭の吉五郎も睨まれれば縮み上がってしまいますし、
元力士の盗賊、櫓の福右衛門でさえ震えだしてしまうほどです。
仁左衛門については随所で一味のものが
「お頭はもとは侍だったのではないか」
といっていますが、その過去については物語の最後に明らかにされますので
ここでは伏せておきましょう。

では仁左衛門の盗め(つとめ)について見ていきましょう。
仁左衛門は盗めのやり方について、だれに学んだわけでもないようです。
仁左衛門の盗めについて、小頭の吉五郎はこんな感想をもらしています。

 むかしのさむらいが、鎧兜に身を固め、槍をおっとり、
 戦場へ出て敵の陣をのっとるようなおもいがしてならぬ。

また、なんといっても仁左衛門の盗めの特徴は、
誰一人傷つけず、それどころかまったく気づかれもせずに盗めを完遂すること
であるということですね。
仁左衛門は吉五郎との会話の中で、昔気質の盗賊が減っていることを嘆いています。
近頃は手段を選ばぬ盗めを行うものが増えたと。
しかし、アウトローの盗賊にも道徳があるのですねぇ。

ただし仁左衛門は「こいつは悪人である」と認めたものについては
容赦はしないようです。
岡田甚之助も櫓の福右衛門も、仁左衛門によって一瞬のうちに倒されています。
またそのことからもわかるように、知力だけでなく戦闘力も非常に高い。
脚力も高く一晩かからず飯田橋の辺りから多摩川のほとりまで駆け抜けています。

仁左衛門の戦術の基本は、徹底した情報管理にあるようです。
雲霧一味の全貌を知るものはほんの一握りの者に限られます。
下っ端の盗賊たちは、仁左衛門の顔すら知りません。
下に行くほど持っている情報量は少なくなりますので、
火付盗賊改方が下っ端をつかまえて責め立てても
大した情報は得られないということになっています。

盗めの計画については、その全貌を知るのは仁左衛門その人以外にありません。
小頭の吉五郎でさえ、盗めの正確な日時について
直前まで知らされないこともあります。

そして内部情報の管理だけでなく、外部からの情報入手と分析も抜かりありません。
もちろん岡田甚之助のような内通者を利用したりもしますが、
普通に得られる情報からも鋭敏に危険を感じ取り、
それに素早く対応するのが雲霧仁左衛門の特徴です。
たとえば盗賊改方が苦労して盗人宿の場所などを知ったとしても、
かれらがそこに踏み込むころには盗人宿はもぬけの殻となっているということが
しばしばありました。
このへんも「雲か霧か」と呼ばれる所以になっているのでしょう。

七化けのお千代

物語前半で大活躍の女盗賊です。もちろん雲霧一味。
その魅力で、標的にされた男は例外なく篭絡され、
お千代の言いなりになってしまいます。
それゆえにお千代の一味での役割は「引き込み」というものになっています。
水戸黄門の由美かおるさんの役回りといえばいいでしょうか。
ルパン三世の「ふ~じこちゃ~ん」は・・・ちょっと違うかな・・・。

引き込みとは標的となった商家などにその家の一員として入り込んで、
商家の情報を雲霧仁左衛門に流すという役割ですね。
引き込みには使用人を演じたり、出入りの按摩を案じたりという者もいますが、
お千代の場合はその店の主人の愛人になるわけです。
非常にわかりやすく、しかも強力な戦術。

また、かなり怖い女でもあるようです。
三坪の伝次郎がお千代の色香に迷って押し倒そうとしたことがありましたが・・・

 伝次郎はお千代を押し倒そうとするが、
 なんと倒れるどころかびくともしないのである。
 自分の襟首の辺りから、なにやらきらりと光るものを抜き取り
 「畜生。こ、こんなものを・・・」

伝次郎は首を針で刺されそうになって考えを改めたようです。

あとは、山猫の三次がお千代に説教されてうなだれる場面もありましたね。
三次はお千代と松屋吉兵衛の寝床を床下からうかがっていたんです。
気づかれないと思っていたのですけど、お千代は気づいていたのですね。
それで三次はこってり絞られるということになります。

女だからといって「なめたらあかんぜよ」という感じですが、
仁左衛門の前に行くととたんに女性らしくなってしまいます。
幼い頃から仁左衛門に恋焦がれていたようで、
彼と話すときは少女のようになってしまうのですね。
・・・・・・読者にとっての救いです。

それにしても、お千代にいい様にされる松屋吉兵衛を見ていると、
女性って怖いなぁ・・・なんて、思えてきます。
彼だって百戦錬磨、したたかな大商人なんですよ?
それがまるで赤子のように・・・

木鼠の吉五郎

吉五郎は雲霧一味の小頭、つまり仁左衛門に次ぐ人物です。
身体能力も精神能力も申し分なく、何をするにも抜け目ありません。
また、人格的にも完成されているようで、上からも下からも信頼されています。

身体能力の高さを証明したのは、喜右衛門の家で盗賊改方と争った時ですね。
雷雨のためもあったでしょうし焦りもあったのでしょうが、
吉五郎ともあろうものが六之助その他の手下ともども
盗賊改方の罠にはまって包囲されてしまいます。

ここで手下どもは簡単にとらえられ、
因果小僧六之助でさえ同心に囲まれて叩き伏せられてしまったのに、
吉五郎一人は包囲を破って逃走しています。
しかもそのとき、人一人を飛び越えるという跳躍力を見せています。

また抜け目なさの点で言えば、
吉五郎の追跡に、最後まで成功したものはいません。
吉五郎は常に追跡されているのだという心構えの下に移動していますので、
習慣的な行動によって追跡者をまいてしまいます。
つまりたとえ追跡者に気づいていなくても大丈夫ということです。
盗賊改方は三度、吉五郎追跡の機会をつかみましたが
三度とも失敗しています。
そのうち一度は同心を殺害されています。

吉五郎はお頭の仁左衛門と違って、生粋の盗賊のようです。
仁左衛門はこう言っています。

 盗むことが楽しみであり、生きてある甲斐性だという、昔気質の盗賊は、
 日に日に少なくなる。たとえば吉五郎、お前のような男が、な・・・

つまり吉五郎は昔気質の盗賊だといっているのです。
昔気質の盗賊とは、「鬼平犯科帳」でよく言われる、「盗めの三か条」を
守っている盗賊ということでしょう。
(ちなみに「鬼平」の時代はあと数十年先です)

・殺生をしてはならない
・盗まれて難儀をする者から盗んではならない
・女を手篭めにしてはならない

つまり人は傷つけずにお金だけを奪うということに
生きがいを見出すということでしょう。
まあそれも堅気の人間から見れば迷惑ですけど。
しかし、人を傷つけないために昔気質の盗賊は、じっくり時間をかけて
盗め(つとめ)を計画し、実行します。時には何年もかけて。

吉五郎は盗賊として長い年月を過ごしているようです。
仁左衛門の配下になって15年たつということですし、
それ以前にも数人のお頭について盗賊修行をしていたと書かれています。

因果小僧六之助

なぜ因果小僧の二つ名を持つのかは知りませんが・・・
六之助は幼い頃、仁左衛門に拾われて育てられ、
盗賊としての技術や心構えをみっちりと仕込まれたようです。

幼く、生きていくことすらままならなかった彼を拾ってくれたということで
仁左衛門に対しては並々ならぬ恩義を抱いています。

 親も兄弟もねえ、まるで乞食の子のようなおれを拾い上げ、
 これまでに育ててくれたお頭への恩義は、忘れようとて忘れられるものじゃあねえ。
 おれは、お頭のためになら、いまこのときでも死んでみせる

仁左衛門のためならいつでも命を投げ出す覚悟でいるようです。

幼い頃から仁左衛門に鍛えられたお陰か、六之助の戦闘力は相当高いようです。
一味を裏切った鹿伏の留次郎がお千代を舟で尾行しているのに気づいた六之助は
音もなく留次郎の舟に近づいて飛び移った瞬間には船頭を斬り倒しています。
その後、留次郎に対しては・・・・・・

 振り向いた、その鼻柱へ一撃。さらに脾腹へ一撃・・・。
 因果小僧六之助の暴力は、若い優男に似ず強烈であり、的確であった。

この後、六之助はお千代に命ぜられて留次郎の命を奪います。
これが仁左衛門の気に入らなかったようで、六之助は少し遠ざけられてしまいます。
六之助は残忍に見えるところもありまして、人の命を奪うのに躊躇しません。
やるべきときはやる、それも仁左衛門の仕込みなのでしょうけど、
ちょっとやりすぎてしまうこともあるようです。

若い男であるせいか、上にあったようにお千代には絶対服従のようですね。
絶対服従は言い過ぎかもしれませんが、
お頭の次にお千代を重要視しているようです。
そのせいで、お千代にいいようにされてしまうこともありますが・・・

あとはこう見えて人の心をつかむのは結構上手いようです。
三坪の伝次郎は六之助を生意気だと思いつつも
弟のようでどこか憎めないと思ってしまいますし、
裏切り者の利吉に関する情報も、あかの他人の老爺から易々と聞き出しています。

しかしやっぱり六之助が活躍しているのは人の命を奪う場面なのですね。
これは最後の最後でもそうでした。
結局後半では仁左衛門から重要な任務は与えられず、
お頭のために命を捨てる覚悟の彼は悶々と過ごすことになります。

三坪の伝次郎

伝次郎は物語の冒頭で早くも出てきまして、
ラストまでちょくちょく顔を出しています。かなり目立っています。
盗賊としての能力も高いようで、
盗賊の世界では雲霧仁左衛門と並び称される暁星右衛門の配下から、
仁左衛門が直々にヘッドハンティングしてきた人材です。

ただ、外見はどうみてもやり手の盗賊には見えません。

 眉間にそら豆ほどの大きなほくろのある、
 目のおおきな・・・鼻も大きいが、体は子供のように小さい男

と描写されています。しかしそこが盗賊としての利点でもあります。
あんまり怪しまれないというわけですね。

ただ、伝次郎は、物語前半ではいろいろと不満を口にしています。
彼は現在の浅草橋駅の近くにあった、「佐原屋」という船宿、
実は盗人宿の一つなんですが、ここの主人を任されています。
公方様のお膝元の江戸、しかも火付盗賊改方の役宅からも近い場所で
盗人宿を管理するわけですから大変な仕事です。
「なまなかな者につとまるものではない」と小頭吉五郎からも言われているのですが、
その重要な仕事に伝次郎は満足していないようでした。

若造の六之助が盗めの核心に関わる仕事をしているのに、
ベテランの自分はこんな盗人宿から動くことができないというのが
納得いかない。のけ者にされているような気分を味わっていたみたいです。
まあ、仁左衛門のそばで働きたかったのでしょう。

それで物語後半では伝次郎も盗めに直接関わることになるんですが・・・
この人結構間が抜けているのかもしれません。
二度尾行され、それに気づけずじまいでした。
吉五郎らであればありえないことなんですけど・・・
そしてこれが雲霧一味にとって重大な事態を招いてしまいます。

仁左衛門はその能力を見込んで伝次郎を引き抜いたはずなんですけど、
仁左衛門ともあろうものが見込み違いをしてしまったのでしょうか?
いや、これは単に盗賊改方の執念が勝っていたからだと考えたいですね。

松屋吉兵衛

「わしはもう、面倒な女房なぞ、かまえてもらわぬつもりじゃ」
とは松屋吉兵衛の名言です。

吉兵衛さんは名古屋で薬屋を営む大商人で、
尾張徳川家にも莫大なお金を貸し付けているという実力者でもありますが、
すでにほとんど隠居状態にあるようです。
息子も商人として出来がいいようで、もう何の心配もない身分。
妻は既に亡くしてしまったので、女遊びばかりしているというわけですが・・・・・

今回は勝手が違いました。相手はあの七化けのお千代ですから。
江戸の伯父の家に遊びに来ているときに、
雲霧仁左衛門に命じられたお千代の手に落とされてしまいます。
もう、お千代なしでは生きていけない!というほどの状態になります。
それでお千代と結婚するために名古屋につれて帰ることにします。

冒頭の言葉はどうなったんだ・・・・・・

名古屋に帰ってお千代と結婚の約束をし、天にも昇る気持ちになった吉兵衛さん。
お千代の胸に抱かれ、
「わしも、うれしい・・・」
などと言って嬉し涙まで流していました。
こうなるとなんだか吉兵衛さんが可哀相になってきますけど。

しかし吉兵衛、ただの女好きのだらしない男ではありません。
そこはやはり商人として何十年も過ごし大きな財産を築いてきた経験があります。
人間力は相当なものがあったらしい。
あの、雲霧仁左衛門を向こうに回しても動じないのです。

 「あるじどの、案内をいたせ」
 吉兵衛はこたえぬ。
 こうなると意外に、吉兵衛ははらがすわっている。
 いささかもふるえてはいないし、胸を張って仁左衛門のみか、
 他の盗賊たちを、むしろ睥睨しているようにさえ見えた。

それでもお千代を傷つけると脅されると、金蔵に案内してしまうのですが、
そこでも吉兵衛はあきらめません。
安全のために、金蔵は数箇所にわけているのですね。
そして、仁左衛門に対してはこれ以上の金はないと言い張ります。

 もしも、これで納得して帰ってくれれば、それにこしたことはない。
 この上、痛めつけられたなら仕方もない。
 別の金蔵へ案内をするまでだが・・・
 それまでは、なんとしても辛抱をした方が得策だ。

やはり吉兵衛さんはしたたかな大商人でありました。

関口雄介

彼は雲霧一味でも火付盗賊改方でもありませんが、物語にしばしば関わってきます。
特に前半では重要な役割が多いですね。

関口雄介は、小梅村、現在の江東区亀戸一丁目の辺りに剣術道場を開いています。
一刀流の師範であります。
その稽古は激しいらしく、やめてしまう門人も多いようで
門下生は15人足らずしかいないということです。
それだけに、道場に残っている門下生は、
残っているというだけでつわものと考えられます。
その中に、盗賊改方長官安部式部の甥や、また改方の同心高瀬俵太郎らがいます。

さすがに剣術の先生ですから、
物語中では単純な戦闘力は最も高いのではないでしょうか。
おそらくもういい年の仁左衛門よりも強いのではないかと思われます。
少なくとも純粋に剣の腕で争えばそうなるでしょう。
ただ、仁左衛門に戦術を練られてしまうと
たとえ一対一でも勝てないでしょうけど。

関口先生は随所でその強さを見せ付けています。
駒寺の利吉という足手まといをかかえつつも、
因果小僧六之助とその手下たちをあっさり片付けて利吉を救出してしまいますし、
いとこの鈴木又七郎に頼まれて幕府の隠密と闘った時も
危なげなく勝利しています。

ただ、その剣の腕で立身出世を図ろうとはしていないようです。

 物欲や名利とはまったく無縁の半生を送ってきた関口雄介なのである。
 ただ一つ。剣をまなぶことによって、人間の肉体と精神のつながりと、
 そのつながりがどこまで高揚するものなのか、
 「それを門人たちと共に、きわめていきたい」

さて、かくのごとき純粋剣士関口雄介なのでありますが、
人情に厚いところもあります。
見ず知らずの、恐らくは堅気の者ではない利吉を
六之助らの手から救い、なおかつかくまってやり、最期も見取ってやります。
遺言まで聞いてやっているのであります。

 雄介は利吉の冷たい左手をつかみ、これを、わが両手の掌にあたたかくつつみ、
 ゆっくりともみほぐしてやりながら、
 「こころ残りのことがあるなら、いうてみよ」と、いった。
 涙ぐんだことなど利吉にとっては何年ぶりのことだったろう。
 (こ、こんなことを、してもらったおぼえは、これまでにねえ)

関口雄介は利吉の遺言を果たしてやり、さらにこれが六之助捕縛につながります。

魅力的な人物である関口先生ですが、
物語後半ではあんまり顔を出してくれんのですよ。
クライマックスの前にちょっと出てきて政蔵さんを助けるくらいです。

山田藤兵衛

山田藤兵衛は火付盗賊改方の与力です。
与力なのですけど、池波正太郎さんの小説の中では
実質副長官のような働きをしています。
後ろで構えている安部式部に対して、
山田藤兵衛は前線で指揮を執っている、という形になっています。
だから、目立つのは安部式部よりも山田藤兵衛です。

この物語の時点では藤兵衛さんは四十歳。
しかし十は老けて見えるということですからかなり苦労なさってるご様子。
容貌は次のように描写されています。

 大きく張り出した額の下に見える目は細く長く、
 開いているのだか閉じているのだか分からぬほどであったが、
 まれに笑顔を見せるとき、藤兵衛の左頬へ、浅い笑窪が生まれるのである。

藤兵衛は、安部式部の前の盗賊改方長官、石川大膳のころから働いていたようですが、
安部式部が七年前に長官になったときにどうしてもと引きとどめたらしいです。
それほど老練で能力に富んでいるということです。

また、藤兵衛さんは上司から信頼されているだけでなく
同僚や部下からも慕われているようです。
気配りが細かく、また、部下を信頼しています。

 高瀬は、与力、山田藤兵衛へ、
 「関口先生の御用で、本所まで行ってまいります」
 それだけ、言った。
 「よろしい」

こんなやり取りにも信頼関係が表れていますね。

山田藤兵衛は、同心、高瀬俵太郎の体を気遣ったり、政蔵の体を気遣ったり、
部下のために役宅に酒を置いておいたり、
また、あの岡田甚之助にさえ気を使っています。

そして下の身分のものからも、遠慮なく意見を出させ、
それが優れていれば迷わず採用します。
こういうところが、部下たちに慕われるポイントなのでしょう。

結局山田藤兵衛は物語の最初から最後まで活躍し、
ついに雲霧一味を・・・・・・捕らえられるのでしょうか!?

高瀬俵太郎

高瀬俵太郎は火付盗賊改方の同心です。主人公の一人といってもいいでしょう。
もちろん彼も上司の安部式部や山田藤兵衛の影響を受けて、
大変実直、上からも下からも信頼されています。

例えば密偵を相手にする時。
密偵というのは

「昔の仲間を売って、あちらこちらを嗅ぎまわり、金にしている奴だ」

という言葉が出てきますが、昔の盗賊仲間から憎まれるのはもちろんのこと、
盗賊改方の人間からも、裏切り者として蔑まれることが多いのです。
武士と盗賊という、身分の差もありますのでなおさらですね。

ところが高瀬俵太郎は、その密偵に対しても誠実に接します。
密偵が必要としているお金は工面してやりますし、
密偵の手柄を自分の手柄とせず、「つつみ隠さず」上司に報告します。

そういう人物ですから、密偵からも、また目明しの政蔵からも信頼され、
特に政蔵とは強固な関係を築いて雲霧一味を追い詰めていきます。

さて、高瀬俵太郎の剣の腕のほうですが・・・・・・
これもなかなかのもののようです。
特に物語の最後で鬼神のごとき活躍をします。
それもそのはず、彼は、稽古の厳しいことで有名な関口道場で
やめずに生き残っている十数名のうちの一人ですからね。

しかし、かくのごとく「強い」高瀬俵太郎なんですが、
物語前半では苦汁を舐めさせられます。
名古屋城下で雲霧一味を見張っている最中なのですが、
名古屋の役人たちはほとんど協力してくれないんですね。
それで俵太郎は一人で見張ることになります。
そうすると眠ることもできなくて、朦朧としているところを
雲霧一味の者に背後から一撃され、意識を失ってしまいます。
そうして首だけ出して土中に埋められてしまうんです。

そのときは俵太郎、涙まで流して屈辱感を味わっていますが、
この時の経験が執念に変わり、雲霧一味を追い詰めていくことになります。

政蔵

政蔵は目明しです。
目明しというのはのちに岡引とか御用聞きとか呼ばれるようになるものですが、
江戸では公式の役人ではなかったようです。
もと軽犯罪者などが同心らから私的に仕事を依頼されたようですので、
江戸町奉行所からはなんの俸給ももらえなかったんですね。

政蔵さんの場合は犯罪者には見えませんねぇ。
政蔵の家は浅草山之宿で「むさしや」という茶店をやっています。
政蔵はお役で忙しいですし、しかも給金も出ないということで、
むさしやで奥さんと父親が働いて生活を支えています。

こういう状態ですから町人から
「付け届け」を積極的に受け取る「親分」も多いのですが、
政蔵の場合はやはり真面目一本やりのようです。
例によって、

「山之宿の親方のためなら、いのちもいらねえ」

と手下たちからは慕われています。
どうも、
安部式部~山田藤兵衛~高瀬俵太郎~政蔵~下ばたらき
という信頼の鎖が築かれているようですね。
理想的な上下関係です。

「目明しにも、あのような立派な男がいようとは、おもわぬことでした」

と関口雄介も言っているとおり、
目明しといえばならず者、というのが常識だったのでしょう。
それだけに、政蔵のような存在は貴重です。

政蔵は物語の後半で、特に高瀬俵太郎との絆を強めていきます。
二人で尾張や伊勢に雲霧一味の捜査に出かけ、
二人で一味のものを尾行して江戸まで帰ってきます。
それがそれまで何度も苦汁を舐めさせられてきた
雲霧一味を追い詰めることになります。

徳川吉宗

池波正太郎さんの小説「雲霧仁左衛門」の舞台は、
徳川吉宗が将軍だったころの江戸や尾張となっています。
吉宗というと時代劇「暴れん坊将軍」ですけど、
雲霧仁左衛門には一切顔を出してくれません。
それから吉宗の時代といえば、大岡越前守忠相ですけど、彼も一切出てきませんねぇ。

とりあえず徳川吉宗のデータをば。
1684年生まれ。将軍在位は1716年~1745年。
1751年死去。
享保の改革が有名ですが、そこで吉宗は質素倹約を命じ、武芸を奨励しています。
この辺り、盗賊改方の面々の態度に反映されていますね。
忠実な家臣です。

吉宗は8代将軍の地位を、尾張徳川継友と争って勝ち取ったわけですが、
このことが物語に少しだけ出てきます。
江戸幕府が尾張に送った隠密と関口雄介が闘う話ですね。
そのせいで、雲霧が狙っていた松屋周辺が火事になり、
火付盗賊改メの任務に支障が出てしまうのですけど。

さて、吉宗が8代将軍の座を勝ち取った理由として、
小説には面白い解釈が紹介されています。
吉宗は身の丈六尺の威丈夫で、武術の腕も相当なものであったと。
そこで誰が吉宗を次の将軍に推したかというと大奥の女性たちであるというのです。
それはもう、同じ将軍なら背が高くて男前のほうが
いいということなんでしょうけど・・・
ちょっと悲しい。